東京高等裁判所 昭和57年(ネ)1408号・昭57年(ネ)2442号 判決
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【判旨】
二<証拠>を総合すれば、被控訴人の夫平野次郎は昭和四四年八月二八日控訴人と本件貸金庫使用契約を締結し、同日右取引に関し被控訴人を代理人として控訴人に届出たこと、右契約は、その期間が昭和四五年三月三一日終了し、同年四月一日から継続され、その後一年ごとに継続されてきたことが認められ<る。>
三平野次郎が昭和五四年五月二七日死亡したこと、同人の相続人は同人の妻である被控訴人、長男マコト、次男マサル及び非嫡出の子である補助参加人の四名であること、昭和五六年四月二六日東京家庭裁判所において、右四名の間に被相続人平野次郎の遺産分割調停が成立したこと、右成立した調停の条項は、被控訴人主張のとおりであること、被控訴人は右調停の席上で本件貸金庫使用権が平野次郎の遺産に属する点について言及したことがなく、補助参加人は平野次郎の遺産中に本件貸金庫使用権があることを全く知らなかつたことは、いずれも当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、補助参加人は、その父平野次郎と別居していたため、その遺産について知るところがなく、昭和五四年八月二日被控訴人及びマコト、マサル宛に右遺産の内容を問い合わせる手紙を出したが、詳細な回答を得ることができず、本件貸金庫使用権の存在は、控訴人経堂支店から昭和五六年六月一日開庫の同意について電話連絡があつて始めて知つたことが認められる。
四補助参加人は、本件貸金庫使用権は、調停の席上少しも話題にのぼらず、一方当事者である補助参加人がその存在を認識していなかつたのであるから、右遺産分割の対象とはなつていない旨主張する。
しかし、<証拠>によれば、本件貸金庫は使用料が昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの一年間六〇〇〇円であり、譲渡、転貸、質入れ等を禁ぜられており、補助参加人は貸金庫そのものでなく、その中身を問題としていることが認められるのであつて、右事実と<証拠>を対照すれば、本件貸金庫について調停の席上明示的に言及されることがなかつたとしても、本件貸金庫は、他の家財道具と同様、右調停条項1(4)(ロ)の被控訴人の取得すべき「その余の遺産全部」のうちに包含されるものと解するのが相当である。もとより、右貸金庫中に調停の席上言及されなかつた平野次郎の高価な遺産があつたとすれば、その遺産は前記調停の対象とはなつていないものというべきであるが、本件貸金庫使用権とその中身とはあくまでも別個のものであり、貸金庫には通常重要書類、高価物を入れるからといつて両者を同一視するのは相当でない。なお、当裁判所は、和解の試みとして、公証人及び代理人を含む本件各当事者、平野次郎の相続人全員立会の上本件貸金庫を開扉しその内容物を点検すべき旨の提案をしたが、補助参加人はこれに応じなかつた。
五補助参加人は、右のように調停条項を解するとすれば右調停は無効であり、また、条理、公序良俗に反する旨主張する。
しかし、当審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は次郎の生前から実際上もつぱら本件貸金庫を使用し、本件貸金庫の使用権が次郎の遺産に属することの意識が希薄であつたのであり、亡夫次郎の遺産を隠匿するつもりで故意に本件貸金庫使用権に言及しなかつたものとは認められず、本件貸金庫使用権そのものは、ある程度の利用価値はあつても交換価値がなく、結局その財産的価値は軽微であるというべきであるから、前記事実関係のもとにおいて補助参加人に調停を成立させるについて要素の錯誤があつたものということはできず、また、被控訴人が調停の席上で本件貸金庫使用権について言及しなかつたことが右調停を無効ならしめる不法行為に該当するものとも認められない。そして、以上のように解することは、なんら条理、公序良俗に反するものではなく、補助参加人の右主張は採用することができない。
六そうすると、控訴人、平野次郎間の本件貸金庫使用契約の借主の地位は、昭和五四年五月二七日平野次郎の死亡と同時にその相続人ら四名に共同相続され、その後右契約は昭和五五年四月一日及び昭和五六年四月一日にそれぞれ控訴人と右共同相続人らとの間において継続され、昭和五六年四月二八日前記遺産分割調停成立により平野次郎死亡に遡つて被控訴人がその借主の地位を単独で相続し、次いで、右契約は昭和五七年四月一日及び昭和五八年四月一日にそれぞれ控訴人と被控訴人との間において継続されたものというべきである(当事者の一方から解約の申出をしたことは、これを認めるべき証拠がなく、使用料の支払は右契約継続の要件とは解されない。)。
(川添萬夫 佐藤榮一 相良甲子彦)